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種子油は体に悪いのか:五つの主張を検証する

種子油が体に悪いとされる主張は、抽出や酸化、オメガ6など五つあります。それぞれ証拠が支持することとしないことを分け、根拠の強い二つを示します。

種子油は体に悪いのか:五つの主張を検証する

先に結論:批判は一つではなく、五つあります

「種子油は体に悪い」という言い方には、実際には別々の五つの主張が混ざっています。ヘキサンによる抽出、加熱でできる酸化生成物、オメガ6が炎症を招くという仮説、精製の工程で生じる微量のトランス脂肪酸、そして種子油が超加工食品の目印になっているという指摘です。このうち比較的しっかりした根拠があるのは加熱と超加工食品の二つで、最もよく語られるリノール酸と炎症の話は、ヒトを対象にした比較試験をまとめた解析では、理論が予想する効果が概ね確認されていない、というのが現状です。

ここでいう種子油とは、種子から採られた、精製されてくせのない油を指します。日本では菜種油、大豆油、こめ油、ひまわり油などがこれにあたり、家庭で使われる「サラダ油」の多くは菜種油や大豆油をもとにしています。どこまでを種子油と呼ぶのかは種子油ではない油の一覧で整理しています。

主張1:石油由来の溶剤で抽出している

出どころは、実際の製造工程です。大量に流通する油の多くは圧搾ではなく、種子を薄く潰して加熱し、石油由来の溶剤であるヘキサンで油分を洗い出します。そのあと脱ガム、脱酸、脱色、脱臭という工程を通ります。これは陰謀論ではなく事実の記述で、食用油ができるまでで工程ごとに説明しています。

証拠が支持すること。ヘキサンは実際に使われていますし、無害な物質でもありません。工場のような高い濃度で長期間吸い込んだ場合、作業者の神経障害との関連が報告されており、だからこそ作業環境の基準が設けられています。

証拠が支持しないこと。店頭に並ぶ油に残るごく微量が、それと同じ働きをするという部分です。溶剤は揮発性が高く、精製の過程でその大半が回収されます。完成した油には残留の基準があり、濃い蒸気を何年も吸い続けることと、フライパンに大さじ一杯の油を使うことは、同じ曝露とは呼べません。工程そのものが気になるのであれば、圧搾法と表示された油も売られています。

確からしさ:低い。

主張2:加熱すると分解生成物ができる

これは根拠のある二つのうちの一つです。

多価不飽和脂肪酸は、構造の上で最も酸化しやすい脂肪です。冷蔵庫でも液体でいられる理由である二重結合が、そのまま酸素の攻撃を受ける場所でもあります。熱、空気、光、時間、そして何より繰り返しの使い回しによって、油はアルデヒド類や重合物、食品化学でいう極性化合物を含む混合物へと変わっていきます。ここは食品の専門家の間で争いのある話ではありません。飲食店の揚げ油の劣化が管理の対象になっているのも、その劣化が測れるほど確かなものだからです。

支持しないこと。「使い回した揚げ油には反応性の高い化合物が含まれる」から「台所にある油があなたを害している」への飛躍です。これらの化合物と人の病気を結びつける証拠は、主に作用機序の研究と動物実験に基づくもので、ヒトでの転帰を示したものは多くありません。そして問題になる量が生じる条件は、揚げ物の温度で何時間も、何日も継ぎ足しながら空気に触れさせるという、業務用フライヤーの条件です。新しい油で野菜を炒める場面とは、条件がまるで違います。

確からしさ:中くらい。ただし当てはまるのは使い回した揚げ油と、そこで揚げられた食品に限られます。

主張3:オメガ6が慢性的な炎症を招く

最もよく耳にする主張であり、そして証拠が最も支えていない主張でもあります。少なくとも、いつも語られる形のままでは支持されていません。

筋書きは整っています。リノール酸はアラキドン酸に変換され、アラキドン酸は炎症を促す複数の情報伝達物質のもとになる。種子油はリノール酸の主要な供給源で、その摂取量は20世紀を通じて増え、同じ時期に慢性疾患も増えた。一つ一つの文はそれぞれ正しいのですが、つなぎ目が持ちません。

ヒトではリノール酸からアラキドン酸への変換は限られていて、調節されているようにみえます。リノール酸を多くとっても、組織のアラキドン酸はあまり動きません。そして、リノール酸の摂取量を増やしたり減らしたりして血中の炎症マーカーを測った比較試験をまとめた解析では、マーカーの上昇は概ね確認されていません。食事の質問票ではなく血中のリノール酸を実際に測った研究では、値が高い人ほど心血管疾患のリスクが低いという関連がみられることが多く、その逆ではありません。

まだ分かっていないこともあります。非常に長い期間の影響、通常よりはるかに多い摂取量、青魚に多いオメガ3を押しのけること自体の意味、そして個人差です。「示されていない」は「否定された」とは違います。ただ、断定的な言い方は証拠より先を走っています。試験の中身は種子油の研究が実際に見つけたことに、体内での反応そのものは種子油が体の中でしていることにまとめています。

確からしさ:いつも語られる形での炎症の主張については、低い。

主張4:精製でトランス脂肪酸ができ、表示では分からない

脱臭は高い温度をかける工程で、その熱によって二重結合の一部がトランス型に変わります。精製された油には、種子にはなかった微量のトランス脂肪酸が含まれます。ここまでは事実です。

一方、「表示が隠している」という後半は、もともと米国の事情です。米国の規則では一食あたり0.5グラム未満なら0グラムと表示できます。日本の事情は違っていて、トランス脂肪酸の表示はそもそも義務ではなく、事業者の任意です。食品表示法で義務づけられているのは熱量、たんぱく質、脂質、炭水化物、そしてナトリウムではなく食塩相当量で、トランス脂肪酸はここに含まれません。つまり日本では、四捨五入で隠れている以前に、多くの商品でそもそも書かれていない、というのが実情です。

支持しないこと。この微量を、かつて広く使われた部分水素添加油脂と同じものとして扱うことです。あちらは桁違いの量を供給していて、ヒトでの証拠もはっきりしていました。

確からしさ:化学としては確かですが、この量での健康への意味は定まっていません。低いから中くらいの間です。

主張5:種子油は超加工食品の目印である

根拠のある、二つ目の主張です。そして、やめた人が実際に体調の変化を感じる理由を、最もよく説明します。

精製された種子油は、袋菓子、菓子パン、市販のドレッシングやマヨネーズ、総菜や外食の揚げ物に、ほぼ例外なく入っています。安く、味に癖がなく、日持ちするからです。「種子油をやめる」と決めた人は、同時にそれらをほとんど全部やめることになり、さらに自分で料理し、表示を読むようになります。管理された食事を使った研究では、同じ栄養素でも超加工の形で出されたときに摂取カロリーが増えることが観察されており、この入れ替えにはそれ自体の効果があると考えるのが自然です。

ですから「種子油をやめたら調子が良くなった」は、観察としては正しく、説明が取り違えられている、という場合が多いのです。変わったのは油だけではなく、皿の上のほとんど全部でした。

確からしさ:目印としては中くらい。油そのものが原因物質だという点については低い。

五つの主張の比較

主張出どころ証拠が支持すること支持しないこと確からしさ
ヘキサン抽出実際の精製工程ヘキサンは使われる。高濃度の長期吸入は作業者に害があった瓶詰めの油に残る微量による害低い
加熱による酸化劣化した揚げ油の食品化学使い回した油はアルデヒド類や極性化合物を生じ、管理の対象になっている新しい油での家庭調理。ヒトでの転帰の証拠は乏しい中くらい(使い回した揚げ油)
オメガ6と炎症リノール酸からアラキドン酸への経路経路は存在し、摂取量は歴史的に増えたまとめた試験では炎症マーカーの上昇は確認されていない低い
精製由来のトランス脂肪酸高温での脱臭工程微量のトランス異性体が生じる部分水素添加油脂と同列に扱うこと低い〜中くらい
超加工食品の目印加工食品と揚げ物のほぼ全てに使われているやめると超加工食品が大きく減る食べ方全体ではなく油が有害な部分だという点中くらい

公平に読んだあとに残ること

根拠のある部分にそって行動するなら、残る優先順位は地味なものです。外食や総菜の揚げ物を減らす、家庭で揚げ油を何度も使い回さない、油は光と熱を避けて保存する、自分で作る回数を増やす。どれも、この論争の勝敗を決めなくても実行できます。ごま油の香りが好きだから、オリーブオイルを使い慣れているから、という理由で油を選ぶのも十分な理由で、そこに炎症の理論を足す必要はありません。

NutriAI がどこに関われるかも、正直に書いておきます。このアプリは写真から食事を推定し、推定される炎症の起こしやすさに A+ から F の評価をつけますが、油はまさに、写真からの推定が最も弱くなる部分です。外食の一皿にどれだけの油が使われ、それがどの油なのかは、写真からは見えません。ですからアプリは油の銘柄を取り締まろうとはしません。できるのは、食事と症状を記録し、時間をかけて可能性のあるパターンを確信度つきで示すことです。それはあなた自身の記録の中の相関であって、診断ではありませんし、臨床的な測定でもありません。揚げ物と体調が本当に連動しているかどうかは、インターネット上の言い争いより、自分の記録のほうがよく教えてくれます。

この記事の根拠

  • リノール酸の摂取量と血中の炎症マーカーを調べたヒトの比較試験をまとめた系統的レビュー
  • 食事の質問票ではなく血中のリノール酸を測定したコホート研究
  • 揚げ油の熱劣化、アルデヒド類、極性化合物に関する食品化学の文献
  • 食品表示法にもとづく栄養成分表示の規定と、食用油の溶剤残留に関する基準
  • 超加工食品と加工度の低い食事で摂取カロリーを比較した、管理された食事による研究

よくある質問

五つの主張のうち、最も根拠があるのはどれですか
加熱に関する主張です。ただし範囲は限られます。繰り返し使い回した揚げ油はアルデヒド類や極性化合物を生じ、その劣化は測定できるため、飲食店の揚げ油は管理の対象になっています。家庭で新しい油を一度使う場合には、同じ主張はあてはまりにくくなります。
サラダ油は炎症を起こしますか
いつも語られる形では、根拠が十分ではありません。リノール酸の摂取量を増減させたヒトの比較試験をまとめた解析では、血中の炎症マーカーの上昇は概ね確認されていません。血中のリノール酸を測った研究では、値が高い人ほど心血管疾患のリスクが低い傾向がみられます。非常に長期の影響については、まだはっきりしていません。
家庭で揚げ油は何回まで使えますか
こして密閉し、光と熱を避けて保存すれば数回は使えますが、色が濃くなる、とろみが出る、泡立つ、においが強くなるといった変化が出たら替えてください。高い温度での繰り返しの使い回しこそが、主張2で述べた分解生成物を生む条件です。
日本の表示でトランス脂肪酸は確認できますか
多くの場合できません。食品表示法で義務づけられているのは熱量、たんぱく質、脂質、炭水化物、食塩相当量で、トランス脂肪酸の表示は事業者の任意です。米国で問題にされる「0グラムへの丸め」の話は、そのまま日本には当てはまりません。
種子油をやめて体調が良くなる人がいるのはなぜですか
多くの場合、同時に袋菓子、菓子パン、市販のソース、外食の揚げ物をやめ、自分で料理するようになるからです。変化そのものは本物でも、それをすべて油に帰し、食べ方全体の変化に帰さないところが、証拠より先に進んだ部分です。

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